阿蘇の動植物

1.阿蘇の動物

 阿蘇の自然の最大の特徴は、広大で冷涼な草原であり、そこを生活の場とする動物の存在が阿蘇の動物相を特徴づけている。草原は、人間の働きかけと自然の回復力が調和した二次的自然の姿であり、阿蘇では古くから人間の営みと自然の力が一体となって地域の風土を形成してきた。そのため、阿蘇の動物の生活は様々な形で人間の生活と関わりあっている。

哺乳類

 阿蘇の草原には、ノウサギ、キツネなどのほか、シカ、タヌキ、イタチ、アナグマ、テン、イノシシなどが棲んでいる。

ノウサギは、阿蘇の中央火口丘でよく見られる。阿蘇のウサギは冬になっても毛の色が変わらないので、雪原でもみつけやすい動物である。昔は、学校行事として、12月になると「うさぎ追い」が行われたが、現在は、小国町や産山村などでイベントとして行われている。キツネは、南外輪山の草地や畑のそばに棲んでいて、稜線上を通る散歩道などに姿を現すことがあるようである。阿蘇出身の詩人蔵原伸二郎は、「きつね」という作品で、枯野をさまようキツネの姿を詩に残している。

また、阿蘇の中央火口丘の山麓には、溶岩性の洞穴がいくつかあるが、米塚付近にある溶岩トンネルには、コウモリが棲んでいる。

野鳥

 熊本県下では、約300種の鳥類が記録されているが、そのうちの半数近くが阿蘇で確認されている。その主流はやはり、草原の野鳥である。  ホオジロ、ホオアカ、セッカなどは数も多く、見つけやすい野鳥である。ほかに、コジュリン、コヨシキリ、オオジシギなども確認されている。また、草原の小動物を餌とする、ツミ、ノスリ、クマタカ(図1)などの猛禽類もみることができる。河口のヨシの原に多いコヨシキリが草原のススキに巣をかけるのも、阿蘇ならではの光景である。

クマタカ
クマタカ
(図1)

昆虫

[チョウ]
 熊本県は九州で最もチョウの豊富な県といわれているが、阿蘇はその中心で、県内に土着する117種のうち、実に109種が生息している。これは、森林だけでなく、草原という阿蘇ならではの自然環境があるからである。実際、ヒメシロチョウ(図2)、オオルリシジミ(図3)、ゴマシジミ(図4)、ハヤシミドリシジミなどは草原にしか生息していない。また、ハヤシミドリシジミを除いて、あとの3種は、九州では阿蘇・くじゅうだけにしか生息していない。

このように、九州でも珍しいチョウが棲んでいることから、阿蘇は「チョウの楽園」ともいわれている。そしてまた、それらのチョウは、九州が大陸と陸続きであった百万年以前に北方から南下してきたチョウで、九州の生い立ちを物語る「生き証人」なのである。

ヒメシロチョウ
ヒメシロチョウ
(図2)
オオルリシジミ
オオルリシジミ
(図3)
ゴマシジミ
ゴマシジミ
(図4)

[糞虫]
 阿蘇の草原には、牛馬の糞を食べる糞虫も多くみられる。数は、熊本県が九州一で、センチコガネ、オオセンチコガネ、オオマグソコガネなど現在47種類が確認されている。その名前に似合わず見事な色合いや立派なツノを持つものもいて、なかなか興味深い草原の昆虫となっている。

 残念ながら、阿蘇の糞虫は、ファーブルの本に出てくる「糞転がし」のように糞を転がす姿はあまり見られず、糞の中や糞の底部・表面、糞の下の地下にいて、糞を食べたり、産卵したりする。また、種類によって好きな糞が決まっていて、新しい糞が好きなものから、時間が経って古くなった糞を好むものまで様々で、自分の好みに厳しいグルメな昆虫といえる。

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2.阿蘇の植物

 阿蘇に生育する植物は約1,600種といわれている。これは熊本県内に分布する種の約7割、日本に分布する種の約2割にあたる。そのうち草原に生育するのが約600種といわれており、その中には「大陸系遺存植物」、「北方系植物」、「襲速(そはや)紀(き)要素の植物」と呼ばれ、九州が中国大陸や四国や本州と陸続きであったという大昔の歴史を物語る植物もある。大陸系遺存植物や北方系の植物は、阿蘇の冷涼な気候と草原という条件の良い環境に適応しているものが多く、このような由来をもつ植物種が混在していることで、阿蘇の植物は、実に多様性に富んだものとなっている。

大陸系遺存植物(朝鮮半島、中国東北区との共通種)

 大陸系遺存植物は、氷河期の頃、中国大陸や朝鮮半島と陸続きだった頃に分布したと考えられ、大陸と九州がつながっていたことを示す「生き証人」といえる。 国内で阿蘇地方だけに分布しているのは、ツクシマツモト(図5)、ハナシノブ(図6)、ヤツシロソウ(図7)、ヒゴシオンなどがある。また、阿蘇地方も含めた国内の限られた地域に分布しているものとして、ヒゴタイ、アソノコギリソウなどがある。

ツクシマツモト
ツクシマツモト
(図5)
ハナシノブ
ハナシノブ
(図6)
ヤツシロソウ
ヤツシロソウ
(図7)

北方系植物

 主に北日本に分布し、阿蘇のあたりが南限となっているものであり、サクラソウ(図8)、リユウキンカ(図9)、イブキトラノオ(図10)、スズラン(図11)などがある。

サクラソウ
サクラソウ
(図8)
リユウキンカ
リユウキンカ
(図9)
イブキトラノオ
イブキトラノオ
(図10)
スズラン
スズラン
(図11)

襲速紀要素の植物

 九州が昔、四国や紀伊半島と陸続きだった頃に分布したと考えられるものであり、ナツツバキ、アサガラ、ヤハズアジサイ、テバコモミジガサ、シコクスミレ、ハガクレツリフネなどがある。
※「襲速紀」の「襲」は熊襲(くまそ)の襲で南九州一帯を指し、「速」は速水瀬戸(豊後水道・四国と九州の間)、「紀」は紀の国つまり和歌山県のことを指す。

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